『アバター2』のメトカイナ族は実在する?モデルとなったバジャウ族とは?

メトカイナ族とは?

『アバター2』を見ただろうか。
今回は新たに「メトカイナ族」という部族が登場した。
彼らは海の中で生活する、まるで海洋の妖精たちのような存在。
水中で自由自在に泳ぎ回る姿はとてもかっこよかった。
でも、実はこのメトカイナ族には実在するモデルがいる。
その名も「バジャウ族」!

バジャウ族とは何者か?

バジャウ族の歴史と文化

バジャウ族は、フィリピン、マレーシア、インドネシアの海域に住む「海の遊牧民」とも呼ばれる人々だ。
彼らの歴史は古く、ずっと海と共に生きてきた。
海の上で生まれ、海で育ち、海の上で子供を生み、海で死んでゆく民族。
かつて3カ国の海域で生活しているバジャウ族には国籍は無かった。
今は、出生届を出しているのでほとんどの人は国籍があるが、ごく一部のお年寄りは国籍がない人もいるそうだ。
バジャウ族の文化は独特で、彼らの音楽やダンス、言語にも海の影響が色濃く反映されている。

バジャウ族の生活様式と伝統

バジャウ族の生活は本当にユニークだ。
彼らは海の上に浮かぶ家に住み、日常生活の多くを海上で過ごす。
彼らの家は、波の上に建てられた浮き家や高床式の小屋で、まるで海の上に浮かぶ小さな村。
バジャウ族の伝統には、海洋生物と共生する知恵が詰まっており、自然と調和した生活を送っている。

  • 音楽とダンス: バジャウ族の音楽は、しばしば海をテーマにした歌詞を持ち、海の音を模倣したリズムが特徴。
    バジャウ族のダンスは「magegal(マギガル)」と呼ばれるもので、水中での動きを表現している。
    この動画内での女性が手をくるくるするのは、波の動きを表現しているそうだ。
  • 言語: バジャウ語は、フィリピン、マレーシア、インドネシアのバジャウ族同士で話されており、これらの地域の海洋環境に影響を受けた語彙が豊富だ。
    例えば、「サマ」(海の人々)などの語彙があり、バジャウ族のことをいう。
    バジャウ族のことを歴史的にフィリピンでは、サマという用語はより陸地を重視し、定住したグループを指し、バジャウはより海を重視し、船で定住する遊牧民のグループのみを指した。
    フィリピンのバジャウ族曰く、1994年から政府により彼らの正式な呼び方を「Sama-Badjao(サマ・バジャウ)」としたようだ。

バジャウ族とメトカイナ族の共通点

ジェームズ・キャメロン監督がメトカイナ族を描く際に参考にしたバジャウ族の特徴

ジェームズ・キャメロン監督は、メトカイナ族を描く際にバジャウ族の生活をお手本にした。
バジャウ族の生活スタイルや文化は、メトカイナ族の描写に大きな影響を与えている。
特に、バジャウ族が長時間水中に潜る能力や海と共に生きる知恵は、映画にリアリティを与えている。

水中生活に適応したバジャウ族の能力

バジャウ族は驚くべき水中能力を持っている。
彼らは息を止めて長時間水中に潜ることができる。
彼らは平均して13分間も息を止めて潜水することができると報告されている。
この驚くべき能力は、長い年月をかけて自然に適応した結果だ。
彼らの驚異的な水中能力の一因は、彼らの脾臓の大きさにある。
研究によると、バジャウ族の脾臓は、一般の人々よりも約50%大きいことがわかっている。
脾臓は酸素を含む赤血球を貯蔵する役割を持ち、潜水時に酸素の供給を助ける。
これにより、バジャウ族は長時間息を止めて水中に留まることが可能になる。
この能力は、メトカイナ族のキャラクターにも反映されており、彼らの水中での生活がリアルに描かれている。
ただフィリピンのセブ島、ボホール島、レイテ島、バタンガスのバジャウ族の村に訪れた私の知る限りでは、素潜りで水深60メートルの場所に10分以上とどまれる人にはあったことがない。

また別の記事で紹介できればと思うが、ボホール島のバジャウ族には、ナイトフィシングで手作りのガスボンベで水中20mくらいのところに数十分間もぐるフィッシングスタイルはあるが、素潜りではない。
ちなみにそのガスボンベは、飲食店にあるようなシロップタンクと呼ばれるタンクにホースをつないで作られている。
それを口に入れて潜るのだが、酸素の供給量を調整するものがなく、常に酸素が出っぱなしの状態で、それを口に咥えたホースを上手く調整して酸素を外に逃しながら潜る。
かなり危険なので、事故でなくなる人もおり、バジャウゲストハウスのガイドであるデンジも、死にそうになったことがあると言っていた。

バジャウ族の人々は素潜りでどんどん潜ってゆき、水深60メートルのところに10分以上もとどまることができる。

https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/b/042200173/

ボホール島のバジャウ族の集落

フィリピンセブ島に住むバジャウ族の実態

バジャウ族の住宅と仕事

無国籍で海の遊牧民と呼ばれ海の上に住み、魚介類を狩りながら生活しているバジャウ族だが、フィリピンのセブ島に住むバジャウ族はセブ島の近代化と共に、昔の生活スタイルが変化してきている。

  • 住居: セブ島に住むバジャウ族は大きく分けて2パターンの住居で暮らしている。

①海上にある高床式
昔ながらの生活と同じく、海の上に高床式の水上住宅を作り密集して住んでいる。
ただ、家の下の海は透き通っているとは程遠く、ヘドロとなっていてかなり汚く、衛生環境が悪い。
汚い理由は近くに政府主導の埋立地が作られ、バジャウ族のエリアにゴミが溜まるようになったこと。発展途上国あるあるだが、そもそもフィリピンでゴミ回収システムが機能していない。ゴミ焼却施設がない。など色々な理由ある。

セブ島の高床式の集落
ヘドロとなっている海

②陸上にあるセメントで造られた集合住宅
アイルランドの慈善団体によって、建てられた家だ。
だいたい400世帯くらいの家があり、6畳ほどの広さの中で暮らしている。多いところだと10人近くのバジャウ族がこの部屋でご飯を食べたり寝たりしている。
2階建になっており、階段の下にトイレがあるが、トイレの配管がゴミなどで詰まっており、集合住宅全体でどのトイレも使用できない状態となっている。
また階段も劣化が進んでいて、登っている最中に階段が壊れてデンジのおばあちゃんが怪我したこともある。
どの家も廃材で補修したりしているのが現状だ。

セメントの家は風通しが悪く暑いので、高床式の家を好む人が大半だ。
道端で散髪している様子。左後ろに映るのが、修復した階段。
配管を修理してもすぐにゴミが詰まり、また壊れてしまう。根本的な解決にはならないものの、試験的に簡易トイレを購入した。これまでは住人はこの自宅でバケツを使い、空気椅子のような姿勢でトイレをしていた。バケツに入った排泄物は海に捨てに行っていたが、簡易トイレを使ってもこの流れは同じだ。

  • 仕事:
    フィリピンでは、女性はよく働き男性はあまり働かないと言われるが、バジャウ族が男性が世帯運営の為に経済的に働くのが一般的だ。
    https://www.lapita.jp/2015/11/clmn-ph01.html

    過去1500年もの間、バジャウ族は持続可能な漁業を実践してきたが、フィリピンでの乱獲によって淡水魚の個体数が壊滅的な打撃を受け、過去50年間、彼らの生活様式は脅かされてきた。
    さらに最近の法改正により、バジャウ族が何世紀にもわたって集まってきた地域での漁業が禁止され、この先住民グループはさらに困窮している。
    https://study.com/academy/lesson/sama-bajau-history-culture-facts-people.html

    大規模な都市開発や環境汚染に伴い、バジャウ族の元々の生業であった漁での生活が厳しくなっているため、漁で生計を立てている人はあまりいない。
    「タニギ」と呼ばれる大きい魚が獲れるシーズンになると、毎日のように漁に行くがそれ以外では漁のために積極的に海に行くことは少ない。
    そのため、船造り&販売、壊れたスマホを修理して販売、観光地でのアクセサリー販売などの仕事をしている男性が多いが、収入は安定しておらず、借金生活を送っている人も多くいる。
    女性は赤ちゃんを抱えて街で物乞いをし、子供たちは物乞いをしたり、安く仕入れたタオルを交通量の多い道路や人通りの多い場所で販売したりなどしている。
水中銃でタニギを獲った時の様子を撮影し、嬉しそうに動画を送ってきた。スマホはツアーガイドとしての連絡用に購入した必要最低限のスペックのため、画質がかなり悪い。
バジャウ族が売っているアクセサリー

バジャウ族が受ける差別

セブ島だけではなく、フィリピン、マレーシア、インドネシアで暮らすバジャウ族は差別されている。
ビサヤ人(セブ島は、フィリピン中部のビサヤ諸島に含まれており、ビサヤ地域で暮らすフィリピン人はビサヤ人と呼ばれる。)にバジャウ族のことをどう思ってるかを聞くと、だいたい酷い言葉が返ってくる。
「あいつらは物を盗んだりするし、物乞いしてたりして危険だ。」「汚い。」「物乞いばかりして働かない怠け者。」など。
もちろん貧困から物を盗んだり、違法薬物の売買に関わってしまう人たちもいるのは事実だ。
ただ、そういうことを知っている人のほとんどはバジャウ族ではなくビサヤ人だ。
バジャウ族自身も悪いことをしている大半はビサヤ人で、物乞いもビサヤ人の方が多いと言う。
実際に私自身が、物乞いの人達を見たときはだいたいがビサヤ人だった。
セブ島に暮らすフィリピン人は300万と言われ、そのうち3,000人ほどがバジャウ族だ。
人口から見ても割合を考えると当然だろう。
それなのに、宗教、言語、容姿、文化などビサヤ人と違うという理由や偏見から差別を受けている。

差別を受けた例で言うと、
ある日、バジャウ族の村は管轄地域外である警察官が突然やってきた。
そして、家の中に勝手に入り、薬物など違法性があるものがないかを物色。
その時に見つけたスマホを「お金がないバジャウ族がスマホなんて買えるわけがない。盗んだだろう。」と言って複数人からスマホを押収したそうだ。
もちろん、そのスマホは盗んだものではないし、後日警察からスマホが返されたわけではない。
この件は差別や偏見以外にも職権濫用にもあたると思うが、こういったことが頻繁に起こっている。

セブ島のバジャウ族の村を訪れるには

バジャウゲストハウスのツアーに参加

バジャウ族に持続可能な雇用を創出するために、ゲストハウスとツアー運営をはじめました。
3,000人が暮らす村では、希望者全員には雇用を与えることは難しいため、炊き出しも定期的に実施しています。

このツアーでは、バジャウ族の生活を間近で見たり、彼らの文化について学んだりすることができます。
バジャウ族との交流を通じて、彼らの魅力を肌で感じることができるので、他では味わえない貴重な経験ができることをお約束します。
ぜひ、参加お待ちしています。

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